一周してもフルには刷れません
定番の陶器マグは直径82mm・高さ95mm・約350mlで、重さは約350gです。直径82mmなら側面の一周はおよそ258mmになります。ところが刷れる範囲として案内されるのは幅180mm・高さ70mmです。残りは、上下に約15mmずつと、取っ手まわりの左右に約25〜35mm。ここが刷れません。
この差が効くのは、ぐるりと一周つながる絵柄を考えているときです。180mmの窓に収めると、一周の7割ほどで絵が切れます。飲み口のフチから底のフチまで使う作りを選べば横228×縦95mmまで広がって、取っ手のぶんだけ残る形になります。一周ちょうど続く柄にしたいなら、回転させて刷る方式を選ぶことになりますが、その場合も商品によって1〜2cmほどの隙間が要るという扱いです。
決め方は逆から入ります。絵柄が一周つながる柄(ストライプ、繰り返しのロゴ、背景を敷いた写真)なら、全面に刷る作りか回転させて刷る方式。絵柄が1枚の絵として完結しているなら、180mmの窓に置くほうが位置が安定します。窓の両端は数mmほどムラが出る場合があるという案内があるので、窓を選ぶときは端に文字を寄せません。
もうひとつ、取っ手の向きです。取っ手は一周の継ぎ目に来るので、右手で持つ人と左手で持つ人では、正面に出る面が変わります。名前やロゴは取っ手の真向かいに1つだけ置くと、どちらで持っても同じものが見えます。左右に2つ置くと、片方は必ず持ち手側に隠れます。
白インクを使わない刷り方だと、白が出ません
陶器マグで一番多いのは、熱と圧力でインクを表面に移す昇華転写です。フルカラーが出てグラデーションも出ますが、白インクを使いません。つまりデータの白い部分は、そのままマグ本体の色になります。白いマグなら白く見えるので気づきませんが、「白い文字」を入れたつもりの場所は、背景を敷かなければ何も刷られていないのと同じです。
これが問題になるのは2つの場合です。文字や線を白抜きにしたデザインと、本体が白以外のマグ。フチと取っ手が黒という作りもありますが、側面が白以外の本体に昇華転写で白を出すことはできません。濃い色の本体に白を出すなら、下地に白を刷ってから色を乗せるインクジェットの方式になります。
細さの下限も刷り方で違います。昇華転写は線幅0.3mm以下・抜き幅0.5mm以下、回転させて刷る方式は線幅0.5mm以下・抜き幅1mm以下、パッドで押す方式は線幅0.1mm以下・抜き幅0.3mm以下が、潰れたりかすれたりする可能性のある範囲として案内されています。細い罫線の入ったロゴと、英字の小さな添え字は、ここで消えます。入稿の決まりとして、文字は3pt以上(白抜きは6pt以上)、線は0.1pt以上(白抜きは0.5pt以上)、濃度は15%以上という段を置いているところもあります。
金・銀・蛍光色と、番号で指定する特色は昇華転写では出ません。色を番号で決めたいなら、色ごとに版を起こす方式を選ぶことになります。
版が立つのは、色ごとに版を起こす刷り方だけ
既製のマグ本体に刷る限り、型は立ちません。版が立つかどうかは刷り方で決まります。
- 昇華転写
- 版が要りません。フルカラーとグラデーションが出ます。白インクは使わないので白い部分は本体の色。金銀蛍光と特色は不可。
- インクジェット
- 版が要りません。下地に白を刷れるので、濃い色の本体にも色が乗ります。特色は再現されません。
- 回転させて刷る
- 1色ごとに版。ほぼ一周に刷れますが、濃淡の違う同じ色は再現されず、グレーはグレーのインクになります。
- パッドで押す
- 単色。曲面と凹凸に押せます。広いベタ面はムラが出る可能性があるため、名前やロゴ1つくらいの面積に向きます。
- レーザーで削る
- 色を乗せず表面を削ります。本体の素材の色がそのまま線になります。
読める数が分からないうちは、版の要らない2つから入ります。版が立たないということは、絵柄を1種類だけ出して、売れた数を見てから2種類目を足せるという意味です。缶バッジやステッカーと同じ入れ方ができます。逆に、同じ絵柄を何年も出し続ける定番にするなら、色ごとに版を起こす方式のほうが色が安定します。
何個から作れるか
単位は1個です。版の要らない昇華転写とインクジェットは、1個から受けている先があります。色ごとに版を起こす名入れの方式は、まとまった数からの扱いが基本で、刻みは頼む先で変わります。本体の種類でも差があって、陶器のマグ、金属のマグ、ガラスのマグの順に、少ない数で受けてもらえる幅が狭くなります。
数えるのは総数ではなく、絵柄の種類ごとの数です。種類を増やしても最初にかかるものの形は変わりませんが、増えるのは絵柄ごとのデータ作成です。全面に刷る作りは裁ち落ちを0に設定し、画像の解像度は400dpiほどを推奨という段があり、テンプレートを使う前提でPDFでの入稿を受けていないところもあります。10種類なら、この作業が10回です。
割れ物で、箱が付いてきます
マグには専用の小箱が付く扱いが多く、複数注文すると箱は折りたたんだ状態で別に同梱されます。つまり届いた段階では、マグと、平たくなった箱が別々にあります。物販で渡す形にするには、箱を組み立ててマグを入れる作業が本数ぶん必要です。100個なら100回です。
ここを当日の台でやると、1人に渡す時間が他の品目の何倍にもなります。先に組んで入れておくか、箱に入れず袋で渡すか、どちらかを発注の前に決めてください。箱に入れずに渡すなら、割れる物を持ち帰らせることになるので、台に緩衝材を用意するかどうかも一緒に決まります。
重さも効きます。本体だけで約350g、箱に入れればそのぶん増えます。ライブの終わりに買う人は、これを持って帰ります。重い物は物販の列の後ろに回るほど売れにくくなるので、台に出すなら開演前の時間に置くか、最初から通販の分として分けておくほうが動きます。画面の向こうに売る相手なら、割れ物は1件ごとの梱包がいちばん重い品目になります。
台の上では、取っ手の向きを揃えません
見本は2個出します。取っ手を右に向けた1個と、左に向けた1個。これで、どちらの手で持つ人にも絵柄の見え方が伝わります。1個だけ置くと、反対の手で持つ人は裏側を想像することになります。
1人が買うのは1個です。色違いや絵柄違いで2種類に割ると、在庫が2つに分かれるだけで総数は増えません。中身を見せずに売る形も向きません。割れる物で箱があり、交換の相手も見つからないからです。
サイズ展開が無いのはフェイスタオルやトートバッグと同じで、読んだ数を1種類に全部寄せられます。アパレルのように「色は残っているのにサイズが無い」という売れ残りは起きません。
買った人がやることを、台と商品ページに1行書く
昇華転写の印刷面は、熱で色が動きます。電子レンジの短時間の温めは一般的な使用として案内されていますが、連続して加熱すると印刷面に影響が出る可能性があり、オーブンと直火は避けるよう案内されています。食器洗い乾燥機は、高温で印刷が剥がれたり色が移ったりする可能性があるため避けるよう案内されています。硬いたわしと研磨剤も、印刷が剥がれる原因として挙げられています。
この4つは、売る側では確かめられません。買った人の台所で起きます。だから台の値札と通販の商品ページに、「食器洗い乾燥機と、オーブン・直火は避けてください」の一行を置いてください。この一行が無いと、印刷が薄くなった写真が後から届きます。あった上で薄くなったのなら、それは使い方の話として答えられます。
焼き物として正常品に入る範囲を、発注の前に知っておく
陶器は焼いて作るので、工業製品のような揃い方はしません。本体や底面の小さな黒い点、へこみ、ピンホール、数mm程度の寸法差、飲み口以外の小さな欠けやスレは、正常品として扱われるという案内が置かれています。焼いたときに素材の鉄分が黒い点になるという説明もあります。側面はわずかに湾曲しているので、全面に敷いた絵柄は多少の歪みが出る場合があるとも書かれています。
これを知らずに箱を全部開けると、1個ずつ手に取って悩むことになります。先に決めておくのは2つです。検品を全部開けるのか、箱から数個だけ抜いて見るのか。そして、どこからを交換に回すのか。飲み口の欠けと、絵柄が窓から大きくずれているものは別の話ですが、底の黒い点と数mmの寸法差は、交換の対象に入らない前提で数えておくほうが当日が静かです。
年号は本体に入れません
マグは家の棚に置かれて、毎日使われます。本体に「2026」や「◯周年」を焼き付けると、翌年から使う理由がなくなります。日付と回数は、付いてくる小箱か、同梱する紙に入れてください。
余りの置き場所は、ほかの品目より重く考えておきます。割れるので箱に戻して積むしかなく、平たく潰せません。缶バッジやステッカーのように封筒に入れて同梱物に回すこともできません。年号を入れていなければ次の現場でそのまま出せるので、使い回しが効くかどうかは、絵柄に年号が入っているかだけで決まります。
相手によって変わること
事務所・会社の名前で出すなら、本体の種類・刷り方と色数・刷る範囲(180mmの窓か全面か)の3つを、見積書の前に決めてください。版の要らない方式を選んでおくと、数を削られても形が崩れにくい側に入ります。社内や取引先に配る物なら、電子レンジと食器洗い乾燥機の注意を、どの紙に載せて渡すかも先に決まります。
ファン有志で作るなら、名前と絵の許諾のほかに、運ぶ手間が増えます。人数ぶんのマグは、同じ数の缶バッジやステッカーと比べて箱が何倍にもなり、重さもそのまま増えます。当日まで箱を置く人と、会場まで運ぶ人を別に決めてください。
本人が自分で作るなら、1個から出せる刷り方で1種類から試せます。ただし届くのは、マグと平たい箱です。箱を組んで入れるところまでを自分の手でやる前提で、1日で袋詰めできる数から始めてください。会場で売るなら、年号を入れない1種類をレジ横に常時置ける相手でもあります。
相談するときに、こちらが先にうかがう5つ
- 絵柄が一周つながる柄か、1枚の絵かこれで刷り方が先に絞れます。つながる柄なら全面に刷る作りか、回転させて刷る方式です。
- 本体の種類陶器か、金属か、ガラスか。白以外の本体なら、白を出す方式に切り替わります。
- 箱に入れて渡すか入れるなら、箱を組んで入れる手間を本数と一緒に数えます。
- 絵柄の種類の数データを作る回数が、種類の数だけ増えます。
- 渡す日と、おおよその個数日付だけでも、間に合うかからお答えします。
絵柄のデータを1つ送ってもらえれば、180mmの窓に収まるか、取っ手まわりで何が隠れるか、白抜きの文字が消えないかを見て、直す場所を絵を描く人に渡せる指示の形でお返しします。グッズ作戦室では、白抜きのある絵柄と全面に敷く絵柄は、仕上がりの見本を一度お見せしてから製作に入ります。